霊峰白山あればこそ。恵みの水と命あり
水あるところに命あり、文明と文化の光あり。水の惑星と言われる地球で、初めての生物は海から生まれました。「世界四大文明」は、すべて川によって育まれました。水は人の暮らしの揺籃(ようらん)であり、尊い存在です。ふるさと石川県、野々市町ではどうでしょうか。
山市三宮町に鎮座する白山比咩神社では、毎年8月15日に「白山水系水利感謝祭」が行われます。白山からもたらされる恵みの水に、感謝を捧げる恒例の夏まつりです。
参詣するのは、灌漑用水の関係者をはじめ、電力会社、農協や農業関係者、企業経営者など、ふだん白山水系の恩恵にあずかっている団体や企業を代表する人たち。そして、手取川流域に住む人々、地元の町内会や地方自治体からの出席もあり、合わせて百人余りの人々が見守る中、古式に則って式典が厳かに執り行われます。
「全国に10万社を超える神社の中でも、水を祀る夏まつりの行事は極めてまれです」。白山比咩神社宮司の山崎宗弘さんは、霊峰白山をご神体とする同神社ならではの水の感謝祭であることを強調します。
古代から扇状地を潤した霊峰白山の恵みの水は、手取川だけではありません。白山麓の広大な森林に降った雨は、長い時間を経て地下水になります。この豊富な地下水を使って、手取川の流域では古くから酒造りが盛んで、最近では下流域の白山市や能美市、川北町などで電子部品産業が盛んになりました。
おいしくて豊富な伏流水を日本酒造りに使わせていただいています――。こう謙虚に話すのは、中村酒造社長・中村太郎さんです。
金沢市長土塀にあった中村酒造は、7年前の平成12年に野々市町清金2丁目に酒蔵を移転しました。地下150mから2本の井戸でくみ上げた伏流水を使って、味わい深い地酒を造っています。
中村さんは、「今、原料になっている水は約百年かかって地下に下りた水だと言われています。百年後の子孫たちが安全でおいしい水を手にすることができるように、企業としての取り組みが必要です」と話し、広大な工場敷地の中にビオトープを設け、ホタルの里づくりを進めるなど、環境保全に努めています。
野々市町上林の「ぶった農産」社長・佛田利弘さんは「水系社会こそ共生社会」と持論を展開します。
「水稲を育んできた日本では、古来、水資源を分け合って上手に利用してきました。ミクロでは手取川扇状地、マクロでは日本全体が水の有効活用によってみんなが助け合う共生社会なのです」
それは、「個」の尊重という現代の風潮に投じられた一石のように聞こえました。